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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

公綱も知らないのだ。

「こよいは休め」

その晩は兵を憩わせていたが、明けるやいな、彼の一隊は率先して、千早城のひがし寄り北谷(金剛谷ともよぶ)の断崖へ胸をあてていた。

この城、東西深く切れて、人の登るべきやうもなし、南北は金剛山につづきて峰そばだち……

とあるとおり、井の底から空を仰ぐ思いがある。大手の千早谷、うしろの風呂谷、南がわの妙見谷、みなそうだった。どこも七、八百尺の切り崖や急峻をなしており、上の台地は、さらに三段階となって、根小屋、高やぐら、一から四までの土塁曲輪を形成している。

公綱と共に、きのう着いたばかりの新手の友軍は、

「宇都宮ひとりに手柄をほこらすな」

と、これまた、ほかの絶壁へ取りついた。けれど、従来からいる現地軍は、

「公綱の一勢で陥せるほどなら、味方数万がこんな難攻はしていない」

と、冷やかに見物していた。

公綱にはそれも小癪だし、日ごろの大言のてまえもある。

「怯むな」

断崖の途中から、下へむかって、部下を督した。

「おれすらこうだ。おれのさきによじ登って行くやつはいないのか」

「なんの!」

一族の若い三河守とその旗本六、七人が彼の横を越えて這いあがって行くのが見える。