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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁
火の雨の下にある城兵の混乱ぶりを想像しての快哉なのだ。だが、矢ごろには限界がある。火の矢はとりでの深くやそう遠くまではとどいていない。
「坑道を取ろう」
「いや、崖を行け」
千早谷をうずめた兵、北谷へ向った数千、すべて三方からとりでに詰寄った軍勢は、万に近い数だった。そのうしろで、押し太鼓のバチは狂気のような乱打をつづけ、陣鉦は山をふるわせた。春闌けてから、山にも雨が少なく、苔や下草まで乾いていたが、天も眼をおおわずにいられぬものか、この日、徐々に雲が下りていた。
或る一距離は、一気に、
わああっ……
と怒濤になって、前進をみせたものの、それからさきは、うごかなかった。――死の壁だった。兵はみな、びょうぶのような崖のすそにへばりつき、地肌の凹凸をえらんで匍匐したきり前には出ない。
部将の号令は声をからす。
一とき、陣鉦や押し太鼓の乱打も、効はなかった。どんないのしし武者も、死の壁と自分とが一つになるには、長短の秒差はあるが、体じゅうの毛穴から、体のなかのものすべてが失われてゆくだけの時間はかかる。
だが、ひとしく長くはない。やがて谷をうずめ、断崖のすそを染めた甲冑と肉塊の色は、雲の這うみたいに徐々と上へ這いすすんではいた。