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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

時親のあたまの中にはまだ義辰が溶け消えていない。やはり人里だ。人里に降りるとさすが人間臭い人間にさっそく出会うものだとおもう。

――子は千早の内にあり、親の自分は寄手にいて、人なみ以上、この大乱の渦中にある身でありながら「どっちへ本腰を入れたらいいのか?」と、迷っている凡将の煩悩な訴えにせまられて、その方針を求められるなどは、逃げ出す以外、この老兵学者にも、手がなかったにちがいない。

だが、何となく、彼の後味の悪さは拭いきれない顔つきだった。

二た股武者、その日和見主義、そんな風潮は彼だって知っている。不愉快になった原因は、自分にあった。

「わしも神ではないからな」

といって逃げたあのことばである。

なんと、いやなまずいことを言ったものだろう。加賀田の隠者時親は、長いこと兵法の神のごとく山では思われていたものだ。そして自分も自分のもとに集まってくる若い郷武士たちに神仙のような態で兵学を講じたり時運を論じたりしていたのである。二十年の余も山中にいられたのは、花鳥風月のおもしろさでなく、ひとえにそんな境地や兵学の論究が愉しかったからだ。

そしてまた、ひそかにこう思っていたのは事実である。