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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁
「これもよからん」
負けおしみでなく時親はそう呟く。そして牛の背からの世間見物にむしろ満足顔だった。
けれど次の日はもう彼もそんな傍観者ぶりではあるけなかった。夕ちかく、道は八幡のへんにかかっていたが、対岸の美豆や山崎あたりの空はまっ赤だし、川面には兵舟の往来がしげく、どうも予定していた鳥羽までは行けそうもない。
「なんじゃろう?」
赤い煙を遠くに望んで、時親は思慮にあぐねたさまだった。するといつのまにか牛のそばから消えていた忍ノ大蔵がどこからかもどって来て。
「赤松勢だそうですよ。播磨の赤松円心が、六波羅軍にやぶれて、山崎へ退き、再度、洛内へ攻め入る支度であんなに気勢をあげているんだそうで」
「ふム。さかんなものだな」
「前の月には、その赤松勢のほうが勝ち色で、一時は桂川、東寺の線をつき破り、大宮、猪隈、堀川、油小路いちめん、火の海だったそうですよ。都のすがたもまるで変っているらしい」
「たれに訊いた?」
「そこらの者の噂です。てまえも久しく都は見てないので」
「したが、赤松勢も山崎まで撃退されているのじゃから、都にはいれぬことはあるまい」
「それや、どんなことしても入れぬことはありませんがね、夜道はやめましょう」