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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

こんどは、気をつけましょうね」

縁へ飛んだ駒の一つを拾うために、彼女はなにげなく体の向きを変えて、手を伸ばした。そして、さっきから遠くにひかえていた右馬介の眸に出会うと、とたんに、その瞼は涙の怺えを失って、ほろほろと珠をこぼした。

それをしおに、右馬介はわざと陽気に声をかけた。そして膝をも前へおしすすめた。

「や、せっかく、双六遊びの、お愉しいところを」

藤夜叉も、あわてて涙をかくしながら、座をゆずって。

「……ま、いつのまに右馬どのには。……若さま、右馬介がみえました。また、おもしろい都ばなしがおありでしょうに」

「若ぎみには、いよいよ御成人でいらっしゃいますな」

「――右馬!」と、不知哉丸はまだほんとには、機げんも直りきッていない顔つきで「いつ来たの? おまえ」

「たった今しがたでございまする。はい、このたびは、火急な用でくだりましたので、若ぎみへは、何の都土産もございませぬが」

「いらないよ」

不知哉丸は、ぷいと立って。

「右馬! 藤夜叉は狡いぞ。この前のときのお土産だけど、双六なんかもういらないよ」

「は、は、は。若ぎみは負けずぎらいでいらっしゃる。武将のお子だ。