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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

鎌倉での酒の座でな。たくさんな白拍子のなかでおざった。さも自慢げに、道誉がかたる女ばなし。ふとそのなかでお身さまのことも言いおった。まるで藤どのは自分のものでもあるように」

そのまま窒息しそうな彼女の身のふるえを、師直は見のがしていなかった。推察は中っているなと冷酷にうなずいたかのようだった。そして彼は、眼のまえの無残なものを、ぽいと措いて、また廊の外へ立って行った。誰か人の来ていた気配をとうに背中で知っていたのである。

「来てくれたか、師泰」

師直は、声をひくめて、寄って行った。

「兄者なにごとで?」

「耳をかせ」

高ノ師直、師泰の兄弟は、顔と顔をよせあった。よく似ているのでおかしいほどだ。ただ弟にはヒゲがなく、あくまですすどい人相だった。

「では、あの女性を」

「ム、きさま、預かっておけ」

「陣中に。いや弱りましたな」

「何の、兵をつけて、民家へでもおけばよい。困ることがあるものか」

「御前ていは」

「おそらく、殿からはお訊ねあるまい。ご舎弟や右馬介は、もてあましているのだ。師直がその才覚を背負ってあげれば、よろこばれる」

師泰はにやにやした。好色な兄のこと、あるいはまた例の病気かもしれぬと。