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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

「そして都まで連れて行き、戦陣のひまには、お通いになるおつもりなんで?」

「ばかな。戯れ口もほどにいたせ」

師直は、声をころし、眉の真ッ向で弟を叱った。

「かりそめにもまだ、主君のお持ちものだ。拾えと仰っしゃったわけではない。それにの、いくら腹は借りものでも不知哉丸さまのご生母でもある」

「とすれば、ちとご酔狂なお世話ではおざるまいか」

「まあ、みておれ。おれが藤どのを有効につかってみせる。およそ大望のおん大事には、あまたな贄が――人柱というものが――要るものだ。すでに殿のご正室やお子たちすらも、鎌倉表に幕府の質とされておる」

「お。鎌倉の質といえば」

師泰は、俄に、おもい出したふうでいった。

「つい今、矢作川の橋口の兵から、執権のお使い工藤孫市、皆吉七郎兵衛の両名が、不知哉丸さまのお身を受取りのため、この地へ着いたとの知らせでございましたぞ」

「いよいよ、みえたか」

予定されていたことではあるが、それにしてもの一問題だ。また新たな屈辱感が誰にも燃えいぶることだろう。わけて不知哉丸を珠と守り育ててきた三河諸党の者が、やすやすそれを渡すかどうか。

「こうしてはいられぬ」