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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

またも同じ運命の、同じお人の生れ代りみたいな“流人の帝”を、島は去年から、配所に迎えていたのである。

その後醍醐以下、侍者の公卿や典侍らの身をあずかってから、すでに早や一年ちかくにはなるが、隠岐ノ判官清高の立場は、一日も心のやすまるひまはなかった。

こんども――

鎌倉の召喚をからくもすませて、出雲から海上まる一日を揺られて来た彼の船は、やっといま、島後の八尾川ぐちへ入って、島第一の高峰、大満寺山を夕空に見つつ帆ぐるまの綱を解いていたが、

「さて」

と、清高のおもてには、どこにもほっとした容子はない。長い旅から帰って、久しぶり自領の灯を見たくつろぎもあるはずなのに、それとは逆な、

「これからだ! ……。むずかしいのは」

独り呟いているかのような硬めた眉の翳だった。

船は八尾川の西へ着く。

古い国府の跡である。暗い潮の香に吹かれながら、岸には無数の松明が出迎えていた。

清高の家ノ子郎党たちであろう。やがて彼の影は、それらの人々にかこまれた馬上となって、近くの小高い山上の館へ入っていた。

その甲ノ尾の館は、祖先義清いらい、一世紀余も住み古してきた代々の家だった。