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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

ともよんでいる。遠いむかしには、島後の国府の支庁があったところから起った地名だが、いまでは守護代清高の甲ノ尾の出先代官所の称がその「別府」で通っていた。

一刻ほど待ったろうか。

やがて、その甲ノ尾の判官清高が、馬でこれへくるのがみえた。わざわざ都万の柵まで来て、舟で行こうとしたことや、目立つほどな従者も連れていないのを見ても、よほど、どこかに気がねしている微行らしくおもわれた。

「やあ、おやかた」

「おう、別府殿か。どうしてこれに」

どっちからも訪ねようとして、ここで会ったのは、偶然でないとして、二人はすぐ舟の方へあるき出した。

期せずして、はなしは秘中の秘にわたるのをお互いに意識し、そこに支度してあった舟を選んだものだった。

「水夫ども。しばらく陸へあがっておれ。用談はここですみそうだ。そちたちは、わしの呼ぶまで、番所の小屋で休息しているがいい」

小者も水夫も追いはらって、清高は叔父とただふたりで、舟のうちに向い合った。

「別府殿、ここなら安心、なんでも話せる。――ところで、きのう妻の使いが、別府のご辺の許へ、何か訴えては行かなかったか?」

清高の小心な善良さにひきかえて、叔父の能登ノ介は、ひと癖もふた癖もありげな男で、島武士ながら世事にも抜からぬ風貌の持主だった。