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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁
世捨て人の庵でも、もすこし何かしらの風雅はある。
「いや有り余る風流よ」
帝は、孤独をもてあそぶかのように、自分を自分の外に観た。
するとここはすばらしいともおもわれた。別府とよぶ鄙びた港の屋根から半島形に伸びている突端の松ばかりな丘の上である。松越しに見える向い島にも人は住むのか。南の高い山はかねて聞いていた焼火山というのであろう。いまは舟歌もない、千鳥の声もしない。波濤と松風とが、交互に廂を吹きめぐっている。
「……どうかなる」
自暴でも滅失でもない。易学の易理が腹に据っていたのだ。従来、幾多の禅家や智識に会って、究極にまで自己を小づき廻してみたりしたことも、いまとなれば、無形に役だっている気がされなくもない。きのうの船中で見たあの殺伐な眼の持ち主にしろ、一瞬はぞっとしたが、しかし今朝はそれほどでもない。「――あれも人間だろうに」と、心のすみでかたづけていた。
しかし、それからまもないことだった。
そのいやな眼の持ち主が、足音をしのばせ、そして帝の御室を木蔭から窺っているのにふと気がつかれたときは、やはり肌そのものが無意識に、きのうと同様、帝を再びぎくとさせていた。