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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

「たれだっ」

と、帝は物蔭の男へ不意にお声をかけた。

いったいに日頃も音吐の高い声の質が、体じゅうから意識的に発したものだけに、

「あっ」

木蔭の男は、恟みを禁じえなかったらしく、へたっと地上にかがまったばかりでなく、帝の眼光にもひしがれて、おもわず平伏してしまった。

「北条の手下だの。もそっと前へすすみ出い」

「……は」

「犬好きな北条の手下は、みな犬真似が上手よの。なぜ前へ出て来んか」

「は」

男は、その武者面を渾身の敵意でやっと擡げた。「天皇が何だ!」と腹のなかではいっている面がまえである。「五分と五分の人間ではないか。しかもここにいれば帝とはいえど一囚人にすぎぬ」と、しいて思惟しながら、一たんはずかずかお縁さきまで歩き寄って行ったのだが、やはりその体の位置を持ちきれないように、つい片膝折って地に屈まる姿勢をとってしまった。

「名はあるのか」

と、後醍醐は訊かれた。

「…………」

これはひどい侮辱だ。

男はむかっとしたようだが、ものを知らない天皇なら我慢せずばなるまいと、胸をさすって。

「隠岐ノ判官の叔父、別府の住人、能登ノ介清秋にておざる」

「では、ここの別府を守る柵の長か」