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ちめいのけんきゅう
地名の研究
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《地名の研究(ちめいのけんきゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 176,308 字 · 347 頁
世間と隔絶した谷奥の小平地は、賦税を免かれ戦乱を避くるに屈強な隠れ里である。山中に住む者とて猿でも山男でもない以上は、穀食を愛し耕作を欲せぬ者はないから、少々の平地を発見した時は物珍しくこれをフクラと名づけ、やがてはその地の草を苅り木を斫り邑居を構えたのであろう。平地の十分にある地方で、取り立ててここをフクラなどと呼ぶ気の起らぬのはまた当然のことである。白尾国柱翁の『倭文麻環』巻六には、大隅肝属郡高山村大字新富の狸の変化を記して、その終りに、
西国にては狐こそ妖をなすにこの肝属隈にては狸の化物多し
と書いてある。右の漢字の隈は御承知の通り通例はクマと訓んでおって、水流によって作られた川の岸の平地であれば、この訓みは東国で谷または入と言うと同じ意味に用いられた地方語であろう。ただ精確に論ずればクマまたはフクラと、タニ・イリ等とは若干の区別があるはずで、後者は一つの水流の岸が、連続して平地を作っている所、西国でいえばサコであろう。他の地方ではセコともハザマともクボとも称えている。クマまたはフクラは川の岸がいったん狭まってまた広くなる一部分の地名である。語を換えて言えばフクラまたはクマはツルまたはホキの上流の地である。