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ちめいのけんきゅう
地名の研究
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《地名の研究(ちめいのけんきゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 176,308 字 · 347 頁
かの地を旅行した人はしばしばどういう意味だろうという。自分はこれまでこの地名の諸国にわたって多いことと、それが知れている限りいずれも峠路の麓にあることとを注意していたのみであるが、試みに一箇の解説を提供してみようと思う。まず今までに耳にしたところでは、村岡櫟斎翁の『甲信紀程』に軽井沢は涸渓の義ならんとあり。吉田博士の辞書にけだし水源涸渇の渓頭の謂ならんとある。これが一説である。この説の事実と合わぬことは二三箇所の地図を見ても分るのみならずサワとはもとより水ある谷のことである。吉田氏はまた『東鑑』の桂井は枯井の形誤かと言われたが誤りとすればむしろ軽井の写し損じかも知れぬ。『倭名鈔』の郷名に葛例または嘉礼があるというが、この類例は今日は多くは佳例川・嘉例川などと川の字を伴ないて存しかえって涸渓の説に背いている。嘉例沢、佳例川等が果して軽井沢と同じ語の変化なるか否かはまだ疑いがあるがこちらにはまた別の説明がある。最も奇抜なるは『新撰陸奥風土記』一に、陸前遠田郡黒岡という村の山中に鰈魚沼がある。鰈魚はもと海中の魚で沼ではここのみに産するゆえとある。おそらくは地名があって後に起った伝説だろうと思うが陸奥南津軽郡浪岡村大字王余魚沢を始めとして王余魚の地名は羽後その他にもあった。