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ちめいのけんきゅう
地名の研究
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《地名の研究(ちめいのけんきゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 176,308 字 · 347 頁
タテが必ずしも武家の住宅に基く名目でないとすれば、次には何ゆえにその多数に偶然に昔の砦の跡があるかという問題が起る。我々は飜って常陸下館の実状によってその理由を会得しようと思う。
一言をもっていえば、下館は『日本書紀』にいわゆる要害之地である。野州の芳賀郡から向って来ると国境線上に立つ新しい町、久下田の谷田貝を起点として、正南の方へ約二里、幅は六七町の低くして細長い丘陵が、中指のごとく茨城県内へ差し入って下館はその南端にある。東の麓に迫って流れるのが五行川で、その東にやや離れて蚕養川の水が行く。今の落合は町からさらに二里弱の南方であるが、古来幾度となく水筋が変ったかと思われる。この二つの川はともにこれという源頭もなく、山野の落水を集めた川で、川というよりもむしろ沼地の澪である。利根と鬼怒川との烈しい浸蝕によって、下流の地盤を低めた結果、この辺一帯のヤチの水がこれに誘われて、その跡を水田とすることができた。五行川・蚕養川はいわば排水渠である。東京附近にも、この類の小川がいくらもある。谷の傾斜がはなはだ緩で、真黒な腐植土の泥深いフケ田を包んでいる所は、いずれも後に一方口が開けて水を搾った昔の沼沢である。