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ふたばていよだん

新編 思い出す人々

内田 魯庵

線上閱讀内田 魯庵《新編 思い出す人々(ふたばていよだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 215,401 字 · 427 頁

青空文庫

私に話したくらいだから公々然と誰に話しても差支ない金であったのだろう。また大杉が警視庁に頼まれて仏訳の法華経の賃訳をした咄もやはり大杉から聞いた。一体仏典を欧洲語から邦訳するというも逆な話であるし、第一警視庁が何の必要があって法華経を訳させたのか、頗る変梃な話であるが、これは大杉を窮地に陥れて自暴自棄させないための生活の便宜を与える高等政策であったろう。後藤子爵が何らかの名目で金を与えたのもやはり同じ意味で、大杉を手馴ずけて犬とするツモリでもなかったろうし、また高が三百円かそこらの僅かばかりの目腐れ金に尻尾を振る大杉でもなかった。(危険人物の激発を緩和する手段としてのこの種の高等政策は一向珍らしくないので、幸徳秋水も長い肺患の療養費を或る筋から給せられていたはずである。)

大杉の巴黎へ行った洋行費が問題となった。後藤子爵から或る中間者を通じて与えられたという説があるが、大杉が子爵から何百円かを貰ったのはモウ十四、五年も前で、二者の関係が今まで長く継続していた乎否乎は疑問である。大杉が柏木へ移転して来て久しぶりで会った時、私が第一に訊いたのはまたこの洋行費の出処であった。