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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

線上閱讀佐々木 味津三《旗本退屈男(はたもとたいくつおとこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 240,656 字 · 478 頁

青空文庫

、小判の威光を鼻にかけて、なすことすることまるで今清盛のようでござります」

きくや、退屈男の江戸魂は、公私二つの義憤から勃然として燃え上がりました。歴たる公職にある者達が、身分も役柄も忘れて一町人の黄金力に、拝跪するかのごとき屈辱的な振舞いをするからこそ、珠数屋のお大尽なる名もなき輩が増長しているに相違ないのです。増長していればこそまた、世間をも甘く見、人をも甘く見て、今のさきのごとく、あらゆる事を小判の力に依って解決しようと、あのような思い上がった振舞いをもしたに相違ないのです。

「よかろう! ひと泡吹かしてやろうわ。奴等の根城は何という家じゃ」

「ほら、あそこの柳の向うに、住の江、と言う灯り看板が見えますやろ。あれが行きつけの揚げ屋でござります」

退屈男は躊躇なくあとを追いました。――折から島原の宵は、ほんのり夢色に暮れ果てて、柳の葉陰に煙る夕霧、霧にうるんでまばたく灯影。その灯影の下を雪駄の音が風に流れて、京なればこそ往き来の人の姿も、みやびやかにのどかでした。それゆえにこそまた、退屈男の江戸前ぶりは、威風あたりを払って圧倒的に爽かでした。いや、威風ばかりではない。