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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
線上閱讀佐々木 味津三《旗本退屈男(はたもとたいくつおとこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 240,656 字 · 478 頁
「ありがてえ。豪儀と話が分っていらっしゃいまさあね。全く殿様の前だが、江戸のお方はこういう風に御気性がさらッとしていらっしゃいますから、うれしくなりますよ。へッへへ、ね、おい三的! 何を柄にもなく恥ずかしがっているんだ。気を鎮めて下さるんだとよ。お酒でね、おめえの気を鎮めて下さるというんだよ。馬を曳いて、はええところあとからやって来な」
まことにこんな旗本道中というものは沢山ない。乗ればよいのに乗りもしないで、二頭の空馬をうしろに随えながら、ゆらりゆらりと大股に歩き出しました。
――行き行く道の先もいち面の深い霧です。
――その霧の中でシャンシャンと鈴が鳴る。
「なかなか風情よ喃」
「へえ」
「霧に包まれて鈴の音をききながらあてのない道中を致すのも、風流じゃと申しているのよ」
「左様で。あっしらもどじょうにして頂けるかと思うと、豪儀に風流でござんす」
行く程にやがて南部の郷を出離れました。離れてしまえば身延久遠寺までは二里少し、馬返しまでは、その半分の一里少しでした。
だのに、今の先、馬子達の草相撲をおき去りにしておいて、胆をつぶしながら逃げるようにお山へ登っていったという十七八のそのあでやかな娘は、どうしたことか見えないのです。