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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

線上閱讀佐々木 味津三《旗本退屈男(はたもとたいくつおとこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 240,656 字 · 478 頁

青空文庫

その不審な男のひと癖ありげな眼の配り、体の構えの油断なさ。

そうして年若い女将のしんしんと冷え渡るような寂しさに、今の脅えた面ざし。

「どうやら火の手はこの家から揚りそうじゃな。のう番頭!」

「は?……」

「いや、こちらのことよ。食物は諸事ずんと贅をつくしてな。なに程高価なものとても苦しゅうない。充分に用意いたせよ」

事起らばそれまた一興、不審の雲深ければさらに一興、いっそ退屈払いになってよかろうぞと言わぬばかりに、のっしのっしと通って行くと、不敵な鷹揚さを示して命じました。

「当家第一の座敷がよかろう。上段の間へ案内せい」

「は。おっしゃりませいでもよく心得てでござります」

然るに対手は心得ていると言うのです。宿改め身分調べに伊達家家中の面々が押し入って来たら、直参旗本の威権を以て、その上段の間に悠然と陣取りながら、眼下に陪臣共を見下して、一喝の下にこれを撃退してやろうと思って命じたのに、亭主とも見え番頭とも思われるその男はさながらに、主水之介の何者であるかもちゃんと知っているかのごとくに、よく心得ていると言うのでした。いや心得ていたばかりではない、極彩色したる一間通しの四本襖に物々しく仕切られた、その上段の間へ導いて行くと、事実何もかも心得ているかのように取り出したのは、綿の十貫目も這入っているのではないか