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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

線上閱讀佐々木 味津三《旗本退屈男(はたもとたいくつおとこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 240,656 字 · 478 頁

青空文庫

そこが名だたる江戸御本丸の中ノ口大玄関でした。

「大目付、溝口豊後守様、御登城にござりますうウ……」

「おあと、早乙女主水之介殿、御案内イ……」

時ならぬ夜の登城でした。呼び立てたお城坊主に案内されて、大廊下、中廊下を曲りながら導かれていったところは、老中御用都屋につづいた中御評定所です。

主水之介の席は、はるかに下がって左り。

右は、腰本治右衛門が控えるだろうと思われたのに、それらしい気色もない、御前裁きというからには、両々対決さすべきが当然であるのに、座の容子ではまさしく片手裁きです。

お坊主たちを促して、何かと手配させている豊後の顔は真ッ青でした。

その顔は、闇から闇へ葬ることの出来なかったことを恐るる色でした。

御直裁を仰ぐと言ったものの、栽きを仰いでもし一主水之介、身の潔白を立て通しえたら、大目付職務の面目は丸潰れなのです。人を呪ったその穴は、おのが足元にぽっかりとあいて来るのです。

城内、夜陰の気はしんしんと引きしまって、しわぶきの音一ツない。

主水之介のおもても冴えて白く、光るのは只眉間傷ばかり。

将軍家は大奥入りをしていられるとみえて、お坊主の顔がのぞいては消え、消えてはまたのぞきながら、しきりと豊後守の青い顔と何か囁き合っていたが、やがてのことにお廊下をこちらへ、高々と呼び立てた声があがり