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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁
ふしぎに帝も「いや」といえなくなるのである。
「…………」
いま。その廉子の眼は、意地のわるいほど、いつまで冷やかなまま帝を見ていた。
後醍醐は、まのわるさを、おおいきれなかった。去ったばかりな小宰相の残り香が、その涙のシミが、まだ、ご自身の袖や膝に乾いていない。
「よう脱けて来られたの」
「参らずにおられましょうか」
これきりで、彼女と帝のあいだは、またしばらく、深夜の波音だけだった。
「あすの夜だ。……明夜迎えが見え次第、ここの木戸を破って逃げる」
帝はわざと、彼女が言いたそうにしていることの眸の矢ジリをほかへ外らして。
「金若から知らせたこと。心得ているだろうな。およその時刻、身じたく、覚悟のほども」
「……ですが」
「不安か」
「いいえ、みかどと、ご一しょでしょう。何の恐れでもありはしませぬ。けれどそのご決行は、何者のおすすめなのですか」
「鰐淵寺の僧都、心ある島武士。またかねてから宮方の成田、名和。そのほか、眼にみえぬあまたな味方が、いまぞと、ここをうながしておる」
「でも、わらわには、解せませぬ、心配でなりませぬ」
「なぜの?」
「さほどな御大事を、あの小宰相へ、おもらしではございませぬか」