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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

次の日のひる。

帝は海上から本土の陸影を見ておられた。

出雲の人煙である。美保ヶ関の松である。また、伯耆の大山である。

陸からは、鯨の一群みたいに見えたであろうその船影は、出雲を避けて、依然、東への船脚をつづけていた。

一書には、このさい、出雲へ上陸するお考えから杵築の一港へ近づいたところ、たちまち反宮方の襲撃に会い、あわててまた海上へのがれ出たともあるが、あきらかにそれは虚説だ。

島の配所の一年間。そのあいだじゅうの人々の腐心は、ただ今日の計にあったのである。脱島後のあてもない軽挙であろうはずがない。

まして、出雲ノ守護塩冶高貞は、敵性とわかっている。

ほんらいなら出雲沿岸の塩冶の船手が、怪しいと見て、すぐなんらかの行動にも出るべきだった。――その気ぶりもなかったのは、大社の孝時、日ノ御碕の検校、鰐淵寺の頼源などの下に不気味な宮方同心の層があるのを知っていたせいであろう。

また沿岸には、さきごろ、海賊岩松の唐梅紋の旗が出没していたこともあるので、それの牽制が大いにものをいっていたのかもしれない。

いずれにしろ、帝のお心あては、伯耆ノ国にあったようだ。