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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁
と一ト頃、里は暗澹としていたが、なんのことはない、例年のごとく牧の馬や牛を引いた博労が、ぞくぞく伯耆平野を過ぎりはじめてもいる。
「長年、お召しぞ」
ある日、彼は忠顕から沙汰をうけた。行宮の階下に、彼はぬかずいた。後醍醐は御簾のうちに、忠顕と行房が、外の左右に侍坐していて。
「追っては、叙位の恩命もくだされようが、こうなったのは、一にそちの忠勤にあるとのおぼしめしから今日は祝酒を賜わる。ありがたく存ずるがいい」
祝酒はべつな部屋でくつろいでいただいた。帝も簾をへだてて杯をとり、そこには妃の起ち居する気配もうかがわれた。
「かえりみると、隠岐を脱して伯耆へ上がるまでの日夜は忘れがたい」
後醍醐は言った。
そして、千種忠顕へ、
「そちは絵が描けよう。丸の中に帆懸舟をいっぱいに描いてみい」
「何になされますか」
「名和の家の紋に与えよう」
「これは破格な」
即座に描いて、
「これでよろしゅうございましょうか」
と、お見せした。
後醍醐はそれに和歌を添えて、長年へくだされた。――時運の風を満帆に孕んで、この天皇軍を、さらに都まで押し進めよと、それはなお長年へ宿命を負わせているような図であった。