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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

「いや、それがです」

右馬介には、彼の一語一語が自分を責めるように聞えて何とも辛かった。そのためである。しいて、話をほかへ外らした。

「この大戦では、なかなかそうもまいりますまい。それに、たとえば、ここのお住居ですが、こことて、いつ恐ろしい武者嵐に掻きみだされぬ限りもありませぬで」

「かくごしています。母ともいつも言いあっています。けれど、母と私は、いま持っているこの倖せを、どんな浅ましい巷でも決して離しはいたしません」

「おうらやましいことだ」

右馬介は腹から言った。自分の身にもくらべて言ったことだったが。

「藤夜叉さまには、もっと、うらやましいことでしょう。しかしあのお方の位置は、あなたがたお母子のおかれた所とちがって、時乱と風雲の眼の中にいるのです。女の道も、お子との愛情も、あらしの外にいるわけにゆきません。……ところで、せっかくこうお静かなおふた方へ、不吉な予感をもうすようですが、万一ここに不慮な変事がおこったさいは、昨夜ここへみえた岩松党の者が、かならずお救いに駈けつけますゆえ、ご心配ないように」

「なにかそんな変事が近々に起りそうなのですか」

「いや、まだ」