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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

朝廷すらも六波羅へ御疎開となった情勢では、一般市民がみな家もすてて山野へのがれたのはむりもない。

だから洛内は荒涼だが、洛外へ行くほど逆に人さわがしい変則な奇景をいまは呈している。――それも桂川から丹波ざかいはあぶないので、嵯峨から北、衣笠からひがし、いたるところの山野には疎開小屋がみえ、農家には同居人があふれ、中には穴住居しているような家族もあった。

右馬介は、そんなあわれな者たちを見あきるほど見て、やがて仁和寺附近の尼長屋を曲がっていた。元々は一院の尼寺に附属して尼衆や後家ばかりの住んでいる所だったが、いまはそんな風儀にかまいなく疎開の男女がそれぞれ有縁の軒に込み入っていた。その一つの破れ門をくぐって、子供の泥足のあとが見える小式台の入口をうかがいながら、

「ごめんください。どなたか、おいでございませぬか」

と、右馬介はそっと奥へおとずれていた。

「おう、これは」

顔見知りらしい老家司がやがて彼のまえに手をついた。しかしだいぶ外に待たされた後、奥の女あるじの居間に通された。

むっちりと肥えた四十路がらみのひとだった。幼子を抱いて、色褪せた衣服もよけい着くずしている容だが、どこかには上流婦人らしい大容な風もある。