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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

「また会おう。手柄して来い。妻子のことは心配すな。この高時が預かっておれば、心配すな」

と、この“うつつなき人”は再三くり返して、高氏を励ましながら、自身も朝の微酒に頬を赤く染めたのであった。

上々な首尾だった。

錦のふくろに入れた拝領の“白旗”を胸にかけ、また併せて拝領した太刀をも押しいただいて、

「では、ご威勢を負って行ってまいりまする」

と、高氏は退出した。

そして柳営の外においた将士の前へ帰って、拝領の品々をしめし、

「一同しておこたえせよ」

と、勝鬨をめいじた。

将士二百八十騎は、その整列をただしたうえ、柳営の桟敷へむかって高らかに、

おうっっ

おうっッ……

三たびの万歳を唱え、終ると、ただちに馬首を西へめぐらしはじめた。

このとき、高時以下、重臣もみな立って、桟敷からこれを見送っていた。執権とすれば、これは最上な大将にのみ与える最上な歓送の意であった。

戛、戛、戛

駒波は、若宮大路から大町を小駈けに駈けた。高氏の駒、直義の駒、上杉の駒、師直の駒、どれも悍気りんりんな毛づやの映えを見せ、それぞれのタテ髪を鎌倉のさくら若葉が吹きなでていた。

ほどなくこの一勢の影は、金洗い坂の府門を出て、稲村ヶ崎もすぎ、ようやく、七里ヶ浜のへんでは、その歩調もすこしゆるやかだった。