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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

「ふしぎな御配慮を」

と、あやしんだのみだった。

えらばれた二十名は昨日今日の家士でなく、みなたしかな侍ばかりだったのも、いかに重い使命であったか察しられる。

「では」

と、彼らは、師直がいうところをよくのみこんで、

「こんなとき、先を駈けて、御馬前ではたらけぬのは残念ですが、しかし御命とあれば」

と、みなかしこまった。

彼らはその場ですぐ甲冑を脱ぎすて、師直が用意させておいた雑多な小袖や雑人支度にそれぞれ着かえた。そして百姓姿となり旅商人となり、また街道の荷持のような風態にやつして、箱根をさかいに、もとの方へ、引っ返して行ったのだった。

師直は、高氏の前へ出て、

「仰せのこと、しかと、いたしておきました」

と、報告し、

「いずれも、ぬかりない者ども。あとの御懸念はもう、ご一掃あってしかるびょう存じまする」

と、つけ加えた。

すると高氏のおもてには、はた眼にもわかるほど、後顧の或る憂いが、拭われていた。こんなことに触れるにつけ、師直は、主人高氏の弱い心の裏を、覗いたように知るのであった。

行軍はつづけられる。

兵は五百とふえていた。野営、宿営をかさねつつ、それからは、ひたいそぎに海道を馳せのぼった。