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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁
とはいえまた振りほどこうにも、振りほどけない女の吸着力を知ると、彼は自分が恐かった。
「気がすんだろう」
すこしおちついたのか。彼女もやっとゆるい嗚咽を余していた。で、高氏はその重たく濡れている顔へそっと言った。
「藤夜叉。……おまえとの仲もこれだけのことだった。そう思ってくれい。伊吹はおまえのふるさとだ。ふるさとへ帰ったつもりでこれからは倖せに送るがいい」
「倖せに?」
彼女はわれから肩を振りほどいた。しかし、燐に似た眸が、男を焦いた。
「なんのことです? 倖せにとは」
「ま、おちつけ」
「いいえ、いまこそ、私は夜叉です。殿という憎い男を、責めずにはいられません。食いころしてもあきたりない」
「わるかった。高氏がわるかった。こう、あやまる」
「そらぞらしい」
なぶられた炎のように、かえって彼女の盲目な手が烈しく高氏の体を突いた。けれど、男の革胴や具足の五体は、石像か金物のようで、刎ね返された感じでしかなく、それがまた、とつぜん彼女の悲泣を誘って、あらぬ口走りとなっていた。
「ち、畜生」
「なに」
「あなたは、鬼か畜生ですっ。まだ何も知らなかった私をとらえて、この梅ばやしの花の木蔭で、いやおうなしに、私の一生をきめてしまったのは、あなたという男ではありませんか。