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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

ここに、彼の妻は浮橋といって、三人の子もあった。

浮橋は、鎌倉から帰ってからの良人が、人がかわったように無口になって、とじこもっているのを怪しんで、ある折、

「さし出がましゅうございますが、なにか重いお悩みでも、お持ち帰りでございましたか」

と、そっと良人へ訊ねた。

「ようきいてくれた。……じつはの、浮橋」

「何ぞ家の浮沈にでもかかわるような?」

「弱った。どうしてよいか」

「仰っしゃってくださいませ。女の身には、何もできませぬが、子たちの上や、家のことならば」

妻の真剣さをみると、清高は初めて、多年つれそいながらまだ知らなかった、べつな妻を見いだした思いで、

「……こうなのだ。じつは」

と、鎌倉表における宗家の道誉の豹変や、幕命の一端などを、かたりかけ、

「それだけなら、まだよいが」

と、あとは妻へも洩らし切れぬ秘事かのように口ごもった。

が、もとより妻として、もう聞きのがすはずはない。浮橋の涙につめよられて、清高は、

「では、はなすが、ゆめ他言はならぬぞ」

と、ついその一事も、声をひそめて打ち明けていた。

「……ま、そ、そんなおそれ多いことを」

浮橋は、まっ青になって、わなないた。