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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

“名”だの、“武門のほこり”のとは、かつての平家の公達や源氏勃興の当初の人々が謡っていた生きがいに過ぎず、近時はまったく、世情がちがう。

名誉とは、立身出世のことである。

生命と取り換えにするほどなものではない。それこそが、武門のすたれだと、かなしむような声すらも、近ごろ、武士のあいだにさえ聞かれなくなったのだ。

清高などは、それと割りきってもいない島武士だったが、たまたま京や鎌倉へ出てみては、滔々たる一般の風潮に驚きをうけて「世の中は変った」と、行くたびに考えさせられ「こんなことでは、いつか自分なども時勢から振り捨てられるぞ」と、いつも恟々たる時代不安を抱いては帰島するのがつねだった。

だから、こんどの鎌倉召喚のばあいでも、

「いかにして身を保つか」

また、

「いかにこのさい、立身の緒をつかむか」

が、彼の胸いっぱいだったので、その点からいえば、幕府の或る密命も、宗家道誉の暗示的な言も、彼には好都合としていいはずなものだった。

ところが、島の現状ではそうもいかない。

かんたんに、それをよろこべない複雑なものが、帝の配所をめぐって、すでに出来上っていたのである。