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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控 猿回し

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控 猿回し(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 125,671 字 · 252 頁

青空文庫

「変りは無いな」

「へェ」

闇の中へ、彼方から此方からも首が生えます。

と、丁度その時でした。庵寺のお勝手口がギーと開いて、提灯をつけた二人の男――と言っても、一人は顔見知りの小僧、一人は寺男でしたが、――岡持を提げて、外へ出て来たのです。

「何処へ行く、お前は誰だ」

同心伊藤治太夫は二、三人の組子を従えてその前に立塞がりました。

「へェ――私は寺男の権六で、小僧さんと一緒に、其処のお蕎麦屋の田毎へ、頼んで置いた蕎麦を取りに参ります。亥刻半(十一時)に皆様へお夜食に差上げる積りで、熱いのを用意するように申付けて置きました、――へェ」

「よしよし、通れ、酒などを持って来てはならぬぞ」

治太夫もさすがに、寒さと空腹には参った様子です。

「では、御免下さい、――皆様御苦労様で」

寺男の権六と小僧は、被り物を傾けて丁寧に挨拶すると、そのまま人垣の中を通り抜けて、ヨチヨチと去りました。

蕎麦屋の田毎では、丁度青髯の浪人者に喰い下られて、銭形平次がひどく困って居る時分です。

が、それっきり、権六も小僧も帰りませんでした。心待ちに待って居る蕎麦も、容易にありつけそうになく、そうかと言って、予告した凶賊黒旋風もやって来そうはありません。