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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控 猿回し

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控 猿回し(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 125,671 字 · 252 頁

青空文庫

三

三

向島へ着いたのはもう夕景でしたが、あまりの騒ぎに顛倒して、殺された主人の弟岩三郎の死骸も其儘、客の田屋甚左衛門と、浪人篠崎小平が帰っただけで、あとの人数は昨晩のままに残って居ります。

主人の出雲屋岩太郎は、四十五というにしては、若くて精力的で、なかなか良い男でもありました。遊び馴れた如才なさで、

「銭形の親分、遠いところを御苦労でした。いやもう飛んだ恥を掻いて」

などと間の悪さを取繕って居ります。

小梅の寮「三宜楼」は月、雪、花に宜しと言う意味でしょうが、主人の岩太郎はこれを、酒に宜く、女遊びに宜く、そして金儲けに宜しと解して、此処へ取引先の客や、旦那筋の武家などを招じ、一夜の歓を尽させる場所にも当てているわけで、その建築も設備もまことに至れり尽せりでした。

鄙びた門や庭も、容易ならぬ凝ったもので、一木一草にもうんと金を喰って居るのが、主人には自慢の種らしく、弟岩三郎の死骸よりは、そっちの方を見て貰い度そうなのは、苦々しくもあります。

門を入ると、かなり広い庭で、二階へ通ずる梯子段が、縁側から直ぐ通じて居りますが、昨夜の名残りで、其辺が何んとなく荒れて居ります。