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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(三)酒屋火事
野村 胡堂
線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(三)酒屋火事(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 146,725 字 · 298 頁
中国の大藩の浪人者で相当の貯蓄を持っているらしく、手習いを教えるでもなく、剣術を指南するでもなく、碁と、謡曲と、学問に凝って、心静かに日を送っている、梶四郎兵衛の娘お勇の美しさは、そんな事には無関心に、平次も日頃よく聴き知っていたのです。
もっとも、梶親娘が向柳原に引っ越して来たのは、ツイこの春で逢う機会がなかったせいもあるでしょう。
早耳のガラッ八さえ、欄干にブラ下がっているうちは見極めが付かず、面喰らって平次のところへ駆け込んだような有様だったのです。
「親御はどうなすった」
と平次。
「知らせてやったが、生憎のお留守だ」
橋番所に居た町役人が口を利きます。
「親一人娘一人の梶さんが、昨夜余儀ない用事で、どこかへ出かけるから、娘と二人で留守番をしてくれと、――私が頼まれて参りました」
四十がらみのお神が顔を出しました。
「お前は……」
「梶さんのお隣の荒物屋のお神さんで」
橋番の老爺は紹介してくれます。
「それは何刻だったえ」
と平次。
「梶さんがお出かけになったのは戌刻(午後八時)少し過ぎ、お嬢さんがお出かけになったのは、それからまた四半刻(三十分)も後でございました」