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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Read 大岡越前 (おおおかえちぜん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 218,436 characters · 437 screens
市十郎の恋
そのせいか、町はどこの番所も、犬目付や町奉行の手が総出で、往来を睨んでいるし、川口はどこの川筋も、夜明けまで、船止めだといっている。――あっしも、足元の明るいうちに、堺町の盛り場へ行き、楽屋者の中へまぎれこんでいますから、もし二人がここへ来たら、そういっといておくんなさい」
「アア、いいよ。……だが、そんなに手配が廻っては、あの人たちも当分、ここへは寄りつけまい」
「梅賀さんにも、耳打ちしておいておくんなさい。じゃあ、そのうちまた」
いちど飛び出したが、味噌久は、また、あたふた戻って来て、
「お袖さんお袖さん。なんだか町調べの役人や手先が、こん夜は、川筋の軒並みを洗ってあるいているそうだ。気をつけねえといけないぜ」
早口に注意して、どこともなく、宵闇のうちへ掻き消えた。
市十郎の恋
導引の梅賀は、湯から上がった体を拭き、浴衣、渋団扇のすがたになって、
「お袖、阿能と大亀が、とうとう馬鹿を、やったらしいな」
「いまのを、聞いていたんですか」
「なあに、客先の茶屋で療治をしているうちにもう、噂は聞いていたのよ」
「捕まったら、獄門でしょうね」
「油煎りになるかもしれねえ。