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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Read 大岡越前 (おおおかえちぜん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 218,436 characters · 437 screens
朝茶漬
きのうまでは、人のうわさの、いわゆる浮名にすぎなかったものが、きょうの事から、かの女の心は、一どに、火ともなる恋の相を表にしてしまった。
「いいよ、泣くな。義平太が、のみこんでおるよ。――それに、誰よりは、お次さんが信じられるし、お次さんのほかに、奉行所内のわれらと、左右太とのあいだを、うまく連絡してくれる者はほかにない。左右太にはなせぬなら、おれから話す。……お次さん、ちょっと、こっちへ顔をかしてくれ」
義平太は、少し離れた所へ、かの女を誘って、ある秘密を、うち明けた。
朝茶漬
ある秘密というのは、現町奉行越前守の、若き日の過失だった。
堀留事件の五人組の賊のうちには、その若き日にむすばれた――越前守とは宿命の人間が、犯罪のうらにひそんでいる。
越前守は、それを覚った。
人間越前として、幾夜か、悩んだことはいうまでもない。
が、より以上、かれの職は、町奉行だった。人の罪を裁く法官であった。
勘蔵、左右太、義平太の三人は、かれにこのことを、率直に、語られたのである。
(お奉行には、それを、どう御処置あそばすお覚悟ですか。私どもは、ただあなたの手足となって働きましょう。