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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Read 大岡越前 (おおおかえちぜん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 218,436 characters · 437 screens
かの女の挑戦
嘘を申すと、承知しねえぞ」
不伝は、葭簀の蔭にいた闇の女を、脅しつけた。
女は不伝を、町方とでも思ったか、顔いろを変えて、すぐしゃべった。
どこの御新造やら知れないが、何でも、淋しいお寺へとか、百夜詣りに通ってゆくと、いうことで、途中、お菰たちが、女と見るとわるさをするので、わざと男の身なりをして行くのだと聞かされていた。
「じゃあ、毎晩ここで、今のように、身なりを変えて行くんだな」
「ええ。わたしは、そのお着物と大小を預かって、駄ちんをお貰いしているだけです」
「そうか」不伝は、すぐそこから駈け出した。そして、また、お袖の影を先に見つけた。
かの女の挑戦
あなた、こなた、お袖は、夜の物蔭ばかりを、さまよった。
そして、深夜を待った。
かの女のひとみは、夜の更けるほど、美しい野獣の眼に似た。五体は、敏捷を加え、世間にたいし、不敵になった。
「こん夜は、どこのを?」
呪咀に燃えるその眼は、路傍の高札を見つけると、仇に出会ったように立ちすくんだ。
町奉行所の名を以て、政令や禁令の“べからず”を箇条書きした高札は、江戸の橋々や見附や盛り場の辻などには、必ず立っている。