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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

Read 大岡越前 (おおおかえちぜん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 218,436 characters · 437 screens

Aozora Bunko

深夜の談笑

とても縄を打つには忍びなくなったのだ。

(――とはいえ、それでは越前守様お心にそむき、まちがえば、北町奉行の手にあげられて、取返しのつかぬことにもなる!)

こころを鬼に、励まし合って、ついに今夜――たった今、ふたりは、江戸橋自身番の内へ、ひとまず縄付として、お袖の身を、土間へ引きすえたのであるが、さて、非情有情こもごもに、胸へせまって、しばしは、面をあげる気力もなかった。

深夜の談笑

驚いたのは、庄七と由蔵だった。

「やっ、こ、これは、いつかの晩の、あの女だ。山善へはいった押込み仲間の――」

「オオ……。万字屋の色子だと詐って、おれたちに大傷を負わせ、この女を、助けて逃げた娘の母親……」

その夜の恐怖を、眼のまえに、再現して見せられたように、寝床の中の庄七も、油障子をうしろに、棒立ちになっている由蔵も、茫と、大きな眼をうつろにして、お袖の姿を見まもっていた。

左右太は、やっと、われに返ったように、義平太へ、よびかけた。

「義平太。どうしよう」

「しようかとは」

「駕籠で送るか、引っ立てて歩くか」

「縄付を、町駕籠でやっては、あとで世間の口がうるさかろう。深夜だ。