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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Read 大岡越前 (おおおかえちぜん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 218,436 characters · 437 screens
阿修羅の判官
しかるに、何と努力しても、法の上に、法の掣肘をうけない、特殊なる人々があったのでは、所詮、千万ヵ条の法令を掲げても、諸民の上に、それは空文だということが相分りました。――それは、はからずも、町奉行たる越前自身の犯した過去の科からでございまする」
阿修羅の判官
縷々と、越前守が、胸の奥底までをいいつくす間、吉宗は、一語も、吐かず、聞いていた。
歯に衣きせず越前もいう。
五代綱吉が、みずから悪法を作って、諸民に強い、自身は、法の及ばない法以上の上に棲んで、十数年の長きに亙り、億生の人々を苦しめた一世代の政罪は、年月のふるほど、慄然たる結果を見せている。それは綱吉が歿しても、六代、七代と将軍家の名が変っても、絶えることではない。ひとたび、悪い世代に宿命づけられた人間の子たちの悲運は、果てなく、非運非命につながり、これが、社会悪の雑草に、はびこッて行く。
「たとえば……です」
と、越前は、自ら、熱湯を呑む思いでなおいった。
――お袖の悪。お燕の悪。また、大岡亀次郎たち一連の浮浪の徒の発生もみな、それを孵化させた汚水が罪の源である。
化物刑部たち一味に見られる武家自体からの腐敗や堕落も、また西国方面の危険なる陰謀も、海外をかけての密貿易たちの跳躍も、帰するところ、どれ一つとして、腐った池が生む成長物でないものはない。