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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Read 大岡越前 (おおおかえちぜん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 218,436 characters · 437 screens
子の十手
「はははは。忠相のごとき、小吏の代りは、いくらでも、世間に人がおりますよ。――ただこの際、幸い、自分が先に歩む者の立場におかれておりますから、久しい間のぬかるみを、道普請して参るつもりです。道さえよくしておけば、天下の賢者、良才も、世間にいないわけではなし、人物はあとからいくらも出て来ましょう」
「おいとま、いたす」
楽翁は、何か、思いきったように、起ちかけた。そして、二人の間に置いていた印籠を、帛紗につつんで、仕舞いかけると、
「あいや。これは、置いて行かれい」
と、越前守も手をのばし、印籠を持った楽翁の手を抑えた。
子の十手
「いや、これは預り物。当人の胸を訊かねば、お渡しできん」
楽翁は、越前守の手を払って、さっさと、懐へ仕舞いこんだ。そして、
「愚老には愚老の信じるところもござれば、悪うお思い下さるな」
と、もいちど、礼をほどこして、室外へ出ようとした。すると、越前守は、大喝して、
「老人。待てっ」
と、うしろからいった。楽翁は、ふり向いて、
「お奉行。何ぞ御用かの」
「その印籠を持って、ここを出ては、御辺のお身にも、禍いがかかろうではないか。――詮議の上に必要な兇状者の証拠品じゃ。