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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Read 大岡越前 (おおおかえちぜん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 218,436 characters · 437 screens
越前守も、一身を賭し、まったく私心を断ちきっているが、この老人も、その越前守を生かしきるため、あきらかに、老いの生命を、投げ出している。
印籠のいい分といい、お燕の匿い方といい、いかにも、苦しい策、見えすいた口実――ではあるが、たとえそれを、白洲でいかに追求したところで、一命を投げ出して、主張するものを、どうしようもない。
(よくぞ、お燕を逃がして下された)
勘蔵も、義平太も、心のうちでは、伏し拝みたいほどだった。
実は、おそらく、こうもあろうかと、密かにそれを期待して、二人は、お燕のことを、迫ってみたのだ。
義平太の顔には、複雑な、よろこびと、父を案じるこの後の危惧とが、こぐらかっていた。
「――井戸へ投身したとは、腑に落ちぬが。それは、いつの事でござるか」
「腑に落ちぬは、ごもっともじゃ。あの娘は、狂気しておった。大岡越前守様を、自分の父であるなどといい、父に会いたや、会いたやと、呼びつづけたりしておった。……と思ううち、数日前の夜、身を投げおった。隣家の庭は広いし、近所の者すら古井戸でおざれば……たれも幾日も知らなんだ」
ひとり語りである。いや、作り語りにちがいない。