Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Read 大岡越前 (おおおかえちぜん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 218,436 characters · 437 screens
第二章
雛鳥ッ子たち
老いたりといえ、忠右衛門だぞ。――市十郎。そちにもいっておく。帰りとうなったらいつでも帰れよ。帰ってくれよ。……お、お縫も……」
いいかけて、さすがに、ほろと、声をかすらせ――
「お縫も、いつまででも、待っておろう。……さあ行け。あまり更けぬうちに」
と、自身、戸ぶくろから雨戸を繰り出し、一枚一枚、敷居のうえを送り出しながらまたいった。
「さあさあ。兵九郎どのも、主殿どのも、風呂場へまわって、浴衣に更えて来たがいい。一杯酌もう。こんな夜は、雨の夜がたり、酒の味もさだめし悪うあるまいて――」
第二章
雛鳥ッ子たち
まだまだ眠たい目を、むりに刺戟されて、市十郎は渋そうに眼をあいた。朝の陽が、破れ障子の穴から射しこみ、かれの寝顔と、もひとつの、白粉剥げの女の寝顔とを――ゆうべの乱痴気を戸閉したままな六畳間に――ぽかっと沼の水死人みたいに二ツ浮かせていた。
「お目ざめ?」
と、女は、寝唾に乾いた唇をすりよせていう。
その口臭、安鬢ツケのにおい、白粉剥げの下から見える粗い皮膚。市十郎は、女の呼吸から、面を外らさずにいられない。夜具の襟には、自分でないべつな男のにおいすら、あきらかにする。