Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

Read 大岡越前 (おおおかえちぜん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 218,436 characters · 437 screens

Aozora Bunko

土蔵格子

恋する者でなければ、刻々、昂まるのみなこの歓びも、この盲目的な一途の気もちもわかるはずがない。

「あ。……駕籠屋。なぜ降ろす。なぜ止める。先の駕籠を、見失うではないか」

「旦那あ」と、駕籠屋は、落ちつきこんでいった。

「相棒が、草鞋の緒を切ッたんでさ。――すこし待っておくんなさい」

「待つはよいが、先の駕籠は?」

「行く先は伺ってありますから、後から行ったって、御心配はありません」

「いや、いけないっ」

「ま。一ぷく、お吸けなすって。その間にゃ」

「呼びとめろ。先のを」

「――もう、見えませんや、旦那」

「な、なに」

市十郎が、飛び出すと、とたんに駕籠屋も逃げてしまい、外濠の水と、枯れ柳の影のほか、前後に何も見えなかった。

土蔵格子

「騙された――」と、覚ると、彼は、騙した者への怒りよりも、一瞬にお袖の姿が、星のような遠さになってしまったことに、地だんだふんだ。

鬢の毛が、疾風を切った。彼の足は、草履もはきわすれ、凍てた大地の冷めたさも痛さも覚えず走りに走っていた。――決して、まだそう遠く離れてはいないはずの、先のブラ提灯を目あてに追って。

追いついた。果たして先にチラと見えた。