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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

Read 大岡越前 (おおおかえちぜん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 218,436 characters · 437 screens

Aozora Bunko

「それやあ出るだろうよ。由井正雪には、よい口実になる」

「オイ、洒落か。よせやい」

「ははは。勘弁しろよ。洒落でも稀にはいわなければ、こんな阿呆みたいな勤めができるかい。……どうだい、去年、伊勢の山田奉行から移って来た南のお奉行なんてものは」

「まず、お歴代の江戸町奉行にもないだろうよ」

「ないだろうな。あんなにまで能のないお奉行もめずらしい」

「山田の案山子――だと皮肉った落首なぞも貼られているが、数寄屋橋御門内は、うららかなものさ」

「それにひきかえ、北町奉行の中山出雲守様は、いよいよ凄腕を揮って、江戸の悪党をちぢみ上がらせている」

「北と南とでは、余りちがい過ぎて、勝負にも何もなりはしない。あんな田舎奉行を、大江戸の南町奉行になど、何だってもって来たものだろう」

「新将軍吉宗公のお眼鑑だというじゃあないか。紀州にお部屋住みの頃から、今の大岡越前どのに、ひそかに、傾倒しておられたのだとかいう噂だが」

「……あっ、庄七。来たぜ」

二人は、六尺棒を持ち直し、棒のように、屹となった。そして、馬蹄の音を交じえた跫音が深夜の大地を打って近づいて来ると、木戸の大門を左右から開いた。