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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Read 大岡越前 (おおおかえちぜん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 218,436 characters · 437 screens
偽せ君子の皮を剥いでやろう。男の罪を、あべこべに裁いてやらずにおくものか)
かの女は、たった一つの生きがいを、ここに見つけ、そして、
(そしたら、どんなに胸がせいせいとするだろう。そのあとなら、死んでもいい)
と、かたく思った。
ゆうべの五人組へ交じって、あぶない薄氷を踏んで来たのには、べつに理由もあったが、かの女が、男にたいする返答の一つでもあったことは間違いない。
「――ええ、いらっしゃいまし。これはこれは御寮人さままで、御一しょで。きのう、お報らせをいただいておりましたので、お座敷を取ってございまする。さあ、どうぞ」
舟は、せまい山谷堀へはいっていた。
吉原帰りの朝の客がよく立ち寄る堀の茶漬屋では、そこの内儀さんが、すぐ桟橋へ姿を見せて、迎えあげた。
朝風呂にはいって、軽いもので、朝飯をたべて、舟はそこへ預け、町駕籠を雇って、お袖とお燕は、先に帰った。
駕籠は、下谷から根岸の里へ。――根岸もずっと淋しい寛永寺裏の一軒の小屋敷、まず、上野の寺侍の住みそうな門のまえで降ろされた。
近くには、同じ寺侍のやしきが多い。お袖はここの御寮人さまである。お燕は、お嬢様とよばれながら、折々、男装したりして出るが、近所の者は、怪しみもしなかった。