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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Read 大岡越前 (おおおかえちぜん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 218,436 characters · 437 screens
着物は、紬じま、袴は唐桟、いつもごつい紀州の田舎好みを、千代田城の奥へ来てからも用いている。
「藪八。おいおい、藪、藪」
吉宗は、吹上のお庭茶屋の内から、外の者を呼んだ。
紀州から連れて来た家来のひとりに、藪田助八なるものがあった。略して、吉宗は、藪八とよび、これを庭番に用いていた。
庭番頭は秘役である。隠し目付ともいわれている。将軍家が密かにお庭茶屋へ誰かをよんで密談を聴く場合でも、庭番頭だけは、近くにいて、見張りをつとめている。
「お召ですか」
「おお、水を汲んで来てくれい」
さっき、坊主がたててさし上げた薄茶茶碗を、助八につき出して、
「坊主のくれる水では美味うない。どこぞの、流れへ行って、活きたような水を一ぱいもって来い。のどが渇いた」
やがて助八が、紅葉山から流れて来る清水をたたえて、捧げて来ると、
「越前はまだか。遅いではないか」
と、それを美味そうに飲みつついった。
「いえ。ただ今、見えられました」
「や。来たか」
亭の内から首をのばして、吉宗は、入口の数寄屋廂の下にうずくまっている裃姿をちらと見、
「呼べ」
と、助八へゆるしを伝えさせた。
やがて、助八は、表に立ち、越前守忠相は、吉宗のまえに平伏していた。