Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

Read 大岡越前 (おおおかえちぜん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 218,436 characters · 437 screens

Aozora Bunko

越前守は、交、二人から訊かれているうちに、かえって、その質問に、ほっと、救われたような顔をした。

「所詮、神の裁きはなし得ない。人間はついに、人間の裁きしかできぬものと――初めから神仏に詫びておくがまず無難だろう」

「法の理想は何でしょう」

「法のいらない世間。囚人のいない牢屋」

「すると、獄舎に罪人を溢れさせて、手柄顔を誇っておる北町奉行のごときは、ちと、滑稽なことになりますな」

「いやそうもいえん。こういう世相の時代では」

「でも、あのように、ほこりを叩いて、細かな罪人までを、びしびし牢舎に投げ入れては、いまに、世間が獄舎か、獄舎が世間か、分らなくなりましょう」

「いうな。ひと事は」

越前守は、それを機に、ひと口、茶をすすって、また調べ物に没頭していた。

かれは、掏摸、窃盗、詐欺などの小さい吟味や、民事の訴訟事などは、いくら数があっても、余り多忙顔はしなかった。白洲にのぞむ時間は、水のながるるような快断をもって、処理して行った。殊に、かれの民事の裁判は、判決でなく、仲裁のかたちをとることが多かった。かれの一声で、和談となった紛争では、いつも、喧嘩の双方に、充分な得心を与え、片手落ちがなく、双方によろこばれた。