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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Read 大岡越前 (おおおかえちぜん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 218,436 characters · 437 screens
――と、数えてきても、どれもこれも、それ一つが理由ではない。やはり最大の原因は、自分の内にあった。何かに吐け口を見なければやまない物騒な青春の火――その火が運命の燎原をみずから焼いているのだ。最初の小さい一つの過失が、次第に、罪から罪を生み、果てなく罪業をつんでゆく。それにも似た青春の野火だ。
この火悪戯は、元より自分の好奇心にもあったことだが、火つけ友達は、まぎれなくあの従兄だ。従兄の亀次郎さえいなかったら、この運命もなかった気がする。
だが、この境遇を、自分はほんとに悔いているだろうか。真に、後悔しているなら、養父はいった(――迷うだけ迷って来い。そして目が醒めたらいつでも帰れよ)と。……今からでも前非をわびて帰れないやしきでもない。
にも関わらず、自分はこの子を捨て児にもしきれないのだ。こうしていれば可愛さはますのみである。本能というか、愛というか、われながら分らない妄執がつのっている。――いや、その妄執の真の相は、この子にあるのではなく、お袖にあるのであろう。もしお袖に会う望みがなければ、若い父親は、この子も路傍の捨て児としてかえりみないにちがいないから――。