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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
Read 蔦葛木曽棧 (つたかずらきそのかけはし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 335,908 characters · 669 screens
三太夫は少しも驚かず、周章てる若殿を尻目にかけ双の掌を開いたまま胸元へサッと突き出すや、十本の指の頂上から、銀糸のような水の糸、千筋に乱れて走り出で、火焔に懸かると見えた時、焔も水も痕なく消えて、襖は依然として立ったまま、三太夫も端然と坐ったまま――。
「火焔と見せて吾を偽むき、その間に潜入しようとしても、この三太夫は偽むかれぬ。思ったよりも幼稚の術者め! この老人は瞞かれまいぞ」
三太夫はカラカラと笑ったが、笑いの声の終えぬ中、廊下に判然と足音して、嘲笑い返す者がある。
「偽むかれぬ偽むかれぬと思うても、そこは人間の浅はかさ! 火焔と見せて汝を偽むき、その間に大地を掘り返し、床板を刎ねて廊下に出でしは、火竜土竜局地秘法! これより寝所に罷かり通り、奥方を捉らえて天に駆らん! そもそも吾を誰とか思う! われは浮世の者ならず、八千魔界の壇上より、人界に堕されし血吸童子! わが法術を破らんものはこの人界にはよもあるまじ! 笑止笑止、老耄めが」
云う声さえも憎々しく、寝所に向かって歩む気配に、三太夫はがばと刎ね起きた。襖を開いて廊下に出で、床に瞳を注いだが、その眼を上げて呼び止めた。