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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控 猿回し
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 猿回し (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 125,671 characters · 252 screens
歩きながら聴こう」
平次は手早く仕度をして、八五郎と一緒に、柳原土手を米沢町に向います。
「主人が帰ってから、あっしは泊るのを止しましたが、昨夜子刻過ぎに、巴屋から急の使いでしょう。行って見ると、路地の中で、あの五人のうちでも、一番美しいと言われたお房が、背中を突かれて死んでいるじゃありませんか」
「誰が見付けたんだ」
「同じ部屋に寝て居るお六ですよ。――時々夜更けに出かけるお房が、子刻過ぎても帰らないので、気になって出かけて見るとあの路地の真ん中、――お萩が殺された場所より少し先の方で、背中を突かれて死んで居たんです」
「刃物は?」
「見付かりません」
「お房が出かけたのは」
「亥刻過ぎだったそうです。お六に言わせると、お房は浮気者で、時々夜中に抜け出しては、男と逢引してるそうですが」
「この薄寒いのに外へ出るのか」
「お内儀がやかましいので、まさか家の中へ男を引入れるわけに行かないんでしょう」
「主人は?」
「さァ、其処までは訊きませんよ」
「よしよし行って見たらわかるだろう」
二人は米沢町へ急ぎました。
柳原土手は朝の光の中に浄化されて、其処にはもう、辻斬も惣嫁も、魑魅魍魎も影を潜め、買出しの商人や、朝詣の老人などが、健康な声を掛け合って、江戸の眠りを覚まして居ります。