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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控 猿回し
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 猿回し (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 125,671 characters · 252 screens
米沢町の路地の中の巴屋は、二度目の凶変に静まり返って居りました。それは朝の華やかな空気の中に、不似合いな無気味さでしたが、お房の死骸はさすがに取込んで、其処には、無残な殺しの跡が、痛々しく人の心を打ちます。
「親分、お房の死骸のあったのは此辺でしたが――」
八五郎の指したのは、巴屋とは反対側の黒板塀の前のあたりで、無気味な血溜りが、湿った土の凹みに碧ずんで居ります。
見上げると高々と板塀、上は忍び返しで容易に越えられそうもありません。
場所は丁度巴屋から路地の出口へ行く半分ほどのところ、一方は完全に板塀で、一方は巴屋と外に二軒家が、事件とは何んの関係も無さそうに、粛然として静まり返って居ります。
「此二軒は何んだ、八」
「堅気な隠居夫婦が一軒、露地の入口は、表の酒屋の住居の裏ですよ」
それはおよそ、水茶屋とは関係の無い人々の生活です。
「板塀には節穴が無かったのか」
「此通り板塀に血は飛沫いて居ますが、節穴はありませんね」
八五郎の指す板塀は、塗料こそ古くなって居りますが、見たところ節穴らしいのは一つもありません。
「此板塀の裏は何になってるんだ」
「空地に二、三軒、しもたやがあるだけですよ。