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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控 猿回し
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 猿回し (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 125,671 characters · 252 screens
「でも」
浪次は続けて何んか言おうとしましたが、障子の陰の濡れた声がそれを遮りました。
「――あの頃私は、お布施で暮して居た、頼りない尼法師だったんですもの、どんな下心があったにしても、寄進報捨を惜しまない檀家に、無愛想な顔も見せられません。入らっしゃればお相手もし、お茶も、お菓子も、ありさえすれば、随分お酒も差し上げました。今更それを形に取って、一々言い交わしたの約束をしたのと言われては、私は旦那に申訳がございません」
お通の声は障子を隔てて絶々ですが、涙に濡れて哀れ深く聴こえました。
「その通りか、浪次」
平次はもう一度念を押します。
「へェ、そう言えば、その通りですが、でも、私は、黙って此家に乗り込んだ通善さんが憎らしく、逢ってもう一度怨が言い度いと思いました」
「それで、吹矢を飛ばして、御新造の眼を潰そうとしたのだろう」
「あれは手加減がありました。あっしは勝負事は空の下手ですが吹矢だけは名人の積りで、三間、五間と離れて居ても、狙った的を一寸とは外しません。目黒へ行って訊いて下されば、すぐわかることです」
「――」
「あの辺は小鳥の多いところで、私は吹矢を使って飛んでいる小鳥の羽根を縫い、無疵のままで生捕りにする修業を積みました。